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2007年9月26日 (水)

これぞ,プロの授業!

長いこと,探しても見つからなかったものが,いきなり先日,見つかりました!
浪人中にお世話になった,予備校時代の授業のテープです。
A面が奥井潔先生,B面が筒井正明先生。
どちらも,駿台予備校での授業です。
そして,どちらも最終講義。
なので,授業の最後に,これから受験に向かう学生へのエールも入っています。
特に筒井先生のテープは,その年度の複数ある講義の中でも一番最後の授業ですし,その上,ご自身がその年度を最後に駿台を辞められたので,正真正銘,これ以上はない「最終講義」です。
そして,筒井先生ご自身も,講義の中で,「この講義は,最終講義の,そのまた最終」と言っています。
ある意味,プレミアものですね(興味があるマニアックな人にとっては,ですが)。

予備校の授業を,「しょせんテクニックの切り売りで,本当の勉強ではない」と思っている方,いませんか?
それは偏見ってもんです。
もちろん,「テクニックの切り売り」だけの授業もあるかもしれません。
では逆に,高校の授業が,どれだけ「本当の勉強」を教えてくれるといえるのでしょう?
自分のいた高校は,比較的良質の授業をして下さる先生方が集まっていたと思います。
(大先輩には東条英機,後輩には乙武洋匡という超有名人がいる高校です。…どちらとも,接点はありませんが。)
とはいえ,予備校のトップクラスの人気講師と比べては,申し訳ないが,気の毒だとすら,思います。
今,私自身が人前で授業をする立場になって改めて思うのですが,予備校の一流講師の授業は,技術も内容も,小・中・高,そして大学などの「予備」ではない学校の,そこらへんの教師ではとても歯が立ちません。

なにしろ,受験は長丁場です。
最低一年以上の長いスパンで,成績をあげ,かつ安定させることが求められるわけです。
ですから,そのためにはやはり本質的な「理解」は不可欠なのです。
「テクニックの切り売り」などでしのぎきれるほど,甘くはありません。
それこそ,結果を出さなければ減給,さらにはクビになる分,高校の授業よりも不可欠です。

確かに,私が予備校に通っていたころは,バブルの絶頂期だったこともあり,授業の前に歌を歌う人もいれば,授業の前にビールを飲む人もいました。
しかしその一方で,厳しい競争社会ですし,そして受験生も自分の合否がかかっていますから,そうしたパフォーマンスだけでは人気講師が勤まるわけがないのです。

さて,私は,親には申し訳なかったと思いつつも,当時は有名講師と言われる授業は片っ端から受けました。
それぞれの先生方の個性はありますが,やはり皆,良い授業をしていたと思います。
だからこそ,今,改めて,予備校の時の授業を聞いてみたいなと思っていました。
そして,久しぶりに,車の中で,聞き入りました。

奥井氏と筒井氏ですが,両氏は駿台の英語の中でもとりわけ格調高い教材である「Choice」を担当していました。
予備校の教材なのに「格調高い」というのもヘンかもしれませんが,本当に「格調高い」のです。
駿台では本科生用の英語授業には何種類かありまして,「英文解釈」の授業に使われる教材は,単に難しい英文を引っ張ってくるのではなく,「学生に伝えたい名文」をピックアップして作られた教材だったのです。
その中でも「Choice」はその最高峰に位置づけられ,その名文の味わいを伝えられる講師が担当していました。
それが,奥井先生と筒井先生でした。
しばしば受験生の間では,「静の奥井,動の筒井」と言われていました。
物静かな語り口の中に,胸にしみいるようにメッセージを伝えてくれた奥井先生。
激しく熱い語りで,心臓を直撃するようにメッセージを伝えてくれた筒井先生。
どちらも,一度聞いたら,ハマってしまう,「語り手」でした。

通勤中の車の中でテープを聞いて,ジーンときてしまいました。
懐かしさもありますが,それだけではありません。
メッセージそれ自体に,感動させられたのです。
そして,聞き終えて,思いました。
こんな授業を,自分はできるだろうか,と。

そしてもう一つ,はたと思ったのです。
奥井先生も筒井先生も,本業は大学教員だったのです。
駿台での授業は,あくまでアルバイトでした。
いわば,今の自分は,同じ立場。
言葉を重ねますが,改めて思うのです。
こんな授業を,自分にはできるだろうか?

今,パワーポイントを使って「わかりやすく」授業をすることが,FD(教員の授業改善)の方法の代名詞のように語られるきらいがあるように感じます。
でも,考えてみたら,80年代から90年代の,マスプロ形式の授業の全盛期には,そんな方法はありませんでした。
かわりに何があったでしょうか?
奥井先生の心に染みいる静かな語り。
筒井先生の心に熱く響く語り。
両先生の語りはまさに,文字化してしまうと,魅力は半減してしまうものです。
訴えかける,声の魅力とでもいいましょうか。
「声」で聞き手を魅了し,納得させる。
これこそ授業力の原点なのだと,テープを聞き入り,改めて脱帽でした。

そういえば,当時,他にもいろいろな先生がいました。
当時の代ゼミの人気NO1の英語教師は原秀行先生でした。
アーチストのライブチケットをとるために「ぴあ」に並ぶかのごとく,この先生の受講チケットをとるために,何時間も並びました(「チケットをとること」それ自体に酔っていたふしも,今振り返ると正直,あるのですが…)。
英語の教師という枠を越えた,どこか人を寄せ付けない,それでいて圧倒させる,そして耳を集中させて聞かなきゃいけないと思わせる「オーラ」がありました。
射貫くような鋭い眼光。
黒板に叩きつけるようなチョークの扱い(たしか,「白一色しか使わない」という哲学を持っていたように思います)。
ダラダラとしゃべらず,低音の声で,短いセンテンスで言い切って語る,独特の語り口。
(「原語録」みたいなものも,受験生の間で流行ったような…そういえば,小泉元首相も,「言い切り方」の語り口ですね)。
誰よりも多くのコマを設け,何百人も入る教室を全て満席にし,その受講生たちが90分,惹きつけられて聞いているわけですから,やはり見事というほかありません。
確かに,雑談も挟むし,下ネタもありましたが,確かに自分は,原先生の授業のおかげで,英文の構造を確実につかんで読む読み方が身についた気がします。

他にも,何人もの予備校の先生から,影響を受けました。
授業内容のわかりやすさはもちろんですが,「人生」においてもずいぶん影響を受けました。
現代文の有坂先生からは,「お勉強ではなく,勉強をするために,大学に行きなさい」と言われました。それから私はブランド志向を捨てて,真剣に大学選びを始めました。
政治経済の吉田先生からは,社会構造の理論の基礎を学びました。ひたすら集中して理論を「考える」授業でした。この授業なくしては,その後,研究者として障害者を取り巻く社会問題に取り組もうとは思わなかったでしょう。
数学の定松先生からは,数学それ自体の面白さを教わりました。そういえば,遠山啓氏が八王子養護学校で算数を教えた実践の話を紹介してくれたのも,この先生でした。

そして予備校時代に,勉強の面白さに目覚めた私は,「大学では,本当の勉強をしたい」と本気で思いながら,大学選びをしていました。
そして大学に合格した瞬間,「これでやっと,『資本論』が読める!」と本気で思いました。
そして大学入学前の3月に,実際に資本論の第一分冊を買って,読みふけりました。
今思っても,ヘンな青年だったと思います。

いずれにしても,今の自分があるのは,予備校で出会った先生方のおかげなのだなと,改めてテープを聞きながら思った次第です。

自分の授業は,いつになったら,当時出会った予備校の先生方の授業を越えられるでしょうか?
簡単には追いつけないだろうとは思います。
けれども,いつかは追いつけたらいいなと思いつつ,高い目標を心に掲げて,日々の授業を行っていきたいと思います。

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コメント

その内容を聞いてみたいです
どこかにアップしていただけないでしょうか?

コメントありがとうございます。
そうしたいのはやまやまなのですが,やはり著作権の関係上,問題がありますから,できないです。
申し訳ありません…

奥井先生に習いました。
本棚には今もChoiceの表紙に書いていただいたサインがあります。
色紙を持って行ったのですが、先生は遠慮され、代わりにあの薄い紫のテキストに英文でサインされたのです。
今からもう20年近く前です。

たくさま,コメントありがとうございます。
奥井先生の講義を聞かれていたのですね!
私は,20年とちょっと前ですので,近い世代なのでしょうね。
話題が通じる方からのコメント,嬉しいです。

私も現在、大学で教員をしています。
今から25年前にお茶の水の3号館で奥井先生のCHOICEを受けていました。
もう人生も折り返し点を過ぎてしまったからかもしれませんが、
浪人していたころがなつかしく思い出されます。
今、ラテン語を勉強し始めたのですが、
ラテン語の文章を読んでいくうちに
いつのまにか奥井先生の口調を真似しているんです。
当時は、「学問っていいなぁ。早く大学に行きたいなぁ」と思っていました。

くしださま,コメントをありがとうございます。
奥井先生の講義を聞かれ,そして大学の教員になられたとのこと,親近感を感じております。
まさに私も,「学問っていいなぁ。早く大学に行きたいなぁ」と思っておりました。
くしださまのコメントを読み,なつかしく,浪人中の「初心」を思い出しました。
ありがとうございました。

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