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2007年7月13日 (金)

入学前にしなければいけないこと(その3)予算案の作成

障害学生支援の難しいところの1つに,予算をどうやって工面するかという問題があります。
正確には,「工面する」のは,部局の経理担当者や本部の財務部であって,現場サイドからすれば,「どこに滑り込ませるか」と言った方が,実感に近いかもしれません。
あ,「滑り込ませる」などというと,なんだか怪しげな響きですね。
「滑り込ませる」というのは,別に悪いことをするという意味ではなく,時期的な問題です。
障害学生が入学することは,入学する前年度の適当な(大学側の予算措置にあたって都合の良い)時期にわかっている話ではなく,入学手続きをしてくれて初めてわかるわけです。
前年度末までに着々と準備している予算決定の流れからすると,「後から割り込んでくる予算」ということになります。
入学手続きは3月中旬ですから,まさに,「滑り込みセーフ」になるか,「アウト」となるか。
学部の予算から充当するとして,少なくとも2つの委員会を通過する必要があります。
1つは,その予算を執行する委員会。
この場合は,教務委員会ということになります。
もう1つは,予算委員会。
それぞれの委員会での予算を審議するデッドラインに間に合わせなければいけない。
そのためにも,教務担当の事務方の協力が不可欠です。
まさに,白澤さんからのアドバイスの1つ,「動いてくれる事務の人」が必要ということですね。
当時の教務係長は,委員会の流れを踏まえて,締め切りを教えてくれました。
数日しか猶予がなかったように記憶しています。

なにしろ初めてのことなので,相場がさっぱりわかりませn。
とにかく,地道に積算していきました。
たしか,想定される授業のコマ数については,1年生の学生の何人かに実際のコマ数を教えてもらって,平均的な数字+αくらいの額を算出した気がします。
学生バイトの単価は一律800円と決まっていますから,コマ数さえ決めれば,あとは機械的に割り出せます。
大学によっては,学生に謝金を払っていないところもあります。
「ボランティア論」のような授業の一環としてノートテイクを実施させて,単位化する方法をとっているところもあります。
それも1つの方法なのかもしれませんが,私は,嫌でした。
聴覚障害学生にとっては,他の学生と同じように授業を受ける権利があります。
そして大学には,そのための措置をする義務があります。
聴覚障害学生は,ノートテイクカーに謝る必要も,お礼を言う必要もないはず。
それはたしかに,日本文化の中での「潤滑油」としては,とりあえず「ありがとう」くらい言った方がいいとは思いますが,それは例えば宅配ピザを注文して,雨の中,届けてくれた配達のおにいさんに,「こんな雨の中,申し訳なかったですね。ありがとうございました。」と言ったり,タオルを差し出してみたりするのと同じ。
仕事としてピザを届けているのですから,雨だからって,注文が減ったら,そっちの方がよっぽど困ります。
ノートテイクは,単価は決して高くはありませんが,移動時間がほとんどかかりません。
たとえば家庭教師は単価は高いでしょうけれど,片道1時間かもしれない。
そうすると,往復2時間かかります。
それと比べたら,あながち割りの悪いバイトともいえない。
さらに言えば,授業を聞くのが好きな勉強熱心な学生にとっては,自分のためにもなる。
ノートテイカーの学生には,ぜひ,お金をもらう以上,プロとして仕事をしてほしいと思いました。

そしてそれより何より,聴覚障害学生自身が注文をつけられる環境を作りたいと思いました。
例えばノートテイカーの字が汚くて読めなかったとします。
なんと書いてあるのか,わからない。
でも,テイカーの学生は,一生懸命で,悪気はなさそうです。
その学生が,自分のために,ボランティアとして,わざわざ時間を削って来てくれていると思うと,「字が汚いから読めない」とは,言いにくいかもしれません。
しかし,それでお金をもらっているとすると,「ちゃんと仕事をしてほしい」といえるかもしれません。
(だからといって,聴覚障害学生自身が「ちゃんと仕事してくれよ」とは言いにくいですね。だからこそ,このことは仲介役としてのコーディネーターが必要という話になります。それはまた別に述べます。)

もちろんボランティアだからといって,いい加減に仕事をされては困るのですが,大事なところは,これは学生にとっての権利であり,答えることは大学の責務なのだということです。

備品は,思いつく限り,現実的に。
ノートテイク用のレポート用紙,ペンなど。
まあ,数量なんて,正直,見当がつかないんですけど,まあ,それなりに見積もるしかないですね。

悩んだのは,コーディネーター謝金です。
コーディネーターが必要だということについては,認識していました。
筑波大学にいたとき,学生が主体となって組織化されていた情報保障の様子を間近に見ることができました。
情報保障者には,大学からの謝金が支払われていました。
しかし,大変なのは,コーディネーターです。
夜な夜な,授業のコマへのテイカーや手話通訳者の割り振りをして,穴を空けないようにしなければいけない。
精神的にもしんどいだろうし,自分の時間も相当食われる。
これは気の毒だなと,(他人事ながら…)思っていました。
それと同時に,このコーディネーターこそが,要であることも認識していました。
そして,大学によっては,事務方や教員が担当している状況も知っていました。
そして,疲労困憊している様子も。

まあ,自己中心的な性格なので(笑),そんなことを自分が背負いたくないと思ってしまったわけです。
でも,学生の誰かに任せるにしても,誰でも良いわけではない。
情報保障のなんたるかの本質がわかって,聴覚障害学生のニーズをくみ取ることができ,そして人の上に立てる人徳がある。
これから,情報保障の体制を作ろうとするまさにそんなときに,ふつう,そんな便利な人がいるわけありません。
…ところが,いたんですねぇ,これがまた。(笑)
正確には,大学院に,これから入学する学生で。
まさに神様がこのタイミングに合わせて送り込んでくれたみたいな学生が。
こんなことの連続だったから,群大の情報保障は,つくづく,「ツキ」に恵まれたと思うわけです。
(その後も,全学的な要項が制定され,学生支援センターの業務として位置づけられ,ほぼ体制が完成するまでの3年間,この「ツキ」は止むことなく続きます)。
その後,翌年の平成16年度からは,コーディネート業務は大学で職員として雇用した手話通訳者が行うことになったので,学生にコーディネート業務をお願いしたのは,この1年きりですが,本当に,助けられました。
その話は,次回に。

そんなわけで,コーディネータが必要だと思っていたし,そのための人選も考えました。
で,後々のためにも,これだけは今やっておかなければならないと思ったのは,コーディネータにきちんと謝金を支払うこと,です。
これはなかなか決めにくい。
ノートテイカー謝金は,テイクを行う授業のコマに合わせて時間数を割り出せばいいわけですが,コーディネート業務は,それこそスキマ時間に不定期に行っているからです。
迷った結果,講座主任に相談しました。
当時の私は,まだ申請書類の作成能力は未熟だったので,予算作成や要望書作成については,講座主任の先生から,勉強させてもらいました。
先々まで目が利く先生なので,私が書いた原案を見てもらって,修正してもらうのですが,けっこう,自分が気づかない視点で指摘してもらいました。
そんなわけで,この時も,一緒に考えてくれて,結論としては,一週間の特定の時間にコーディネート業務をする時間を設けて,原則的にはそこで仕事をしてもらう,という形をとりました。
実際には,その他の時間にも動かないことにはこの業務はまわらないわけですし,支払っていた謝金以上に仕事をしてくれていたと思いますが,そこは当時のできることの限界だったと思います。
ともかく,コーディネート業務があり,それには謝金が支払われるべきだということを,予算申請の段階で組み入れられたことは,今振り返っても,非常に重要なことだったと思います。

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